2023.5.13 記入者:大岩(サービス管理責任者)
「おはよ~。いってくるね」
朝、ご利用者のみなさんがそれぞれ日中活動のため作業棟へ足をはこぶ姿を見送っていると、ご利用者Oさんの手元に目がとまりました。
「はーい、いってらっしゃ…あれ、爪!」
「うん、そうよ。塗ったの。ほら、いいでしょ」
「わ、すばらしい!かわいいですね~」
「いいでしょ~」
うふふとかろやかに微笑み日中活動へと向かうOさんの指先は、Oさん自身を輝かせる色のようにかがやき、それは一日を楽しむための小さな魔法のようでした。
たとえば言葉によるコミュニケーションは3割が語彙で7割が音調によるといいます。音調が平板な人は、豊かな人にくらべて相手に話の内容が通りにくく、与える印象も異なります。ご利用者からもらう朝の何気ないあいさつの「おはよ~」の一言をとってみても、抑揚のある色がみえると今日も元気かなと安心でき、そうでないと不調の発見や気づきにつながることもしばしばあります。
また目黒恵風寮のご利用者の中には、いわゆる会話や言葉によるコミュニケーションをもたない方もいます。わたしたちが人や物の存在から得る感情を言語に移しかえながら暮らしているように、その人らしい表情や仕草や身ぶりや単音の発語で、ときに寡黙に、ときに雄弁に示されることがしばしばあります。
「さん、さん、さんづけ~てぇ~♪」
たとえば歌やステップが大好きなご利用者Iさんは、支援員Sさんが手をとり歌うと、一緒にステップを踏みながらリズミカルに笑顔をうかべて踊られます。Iさんがいつもリズミカルに口ずさむのは「さん、さん、さんづけて」という言葉で、Iさんから歌いはじめたりこちらが歌い始めると、Iさんはいつも笑顔の表情をうかべます。
ゆらゆらちぐはぐと不揃いに、ときに烈しく愛らしく踊りながら、いつだって天真爛漫な姿がそこにはあり、ひとかけら純なものが見えてくるのでした。