花と鳥

2023.1.6  記入者:大岩(サービス管理責任者)

 

「あーーー!ダメだよ、めくっちゃ~!それ私たちがめくるのに!!」

  

新年早々、玄関に置いてある事業所の日めくりカレンダーをめくるとご利用者のMさんとKさんからそう叱られ「えっ!そそ、そうなんですか、あららら…ご、ごめんなさい…」とトホホと頭を下げつつ、めくったカレンダーを一日戻し、お二人に日めくりをしてもらいなんとか許していただいた大岩です。ご挨拶が遅れましたが、みなさま、あけましておめでとうございます。本年もこの活動日記をとおして、すこしでもご利用者のみなさまの日々のようすをお伝えしていければと考えていますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 

寝ぐせで少しはねたご利用者Sさんの髪に太陽がきらきら射します

 

さて年は明け、東京の空はすっきり青々と晴れる日がつづいています。かつて二宮尊徳は『二宮翁夜話』において「木の葉の落ちくるたびに道を掃くは木の葉に使わるるなり」と言い切りましたが、秋から冬にかけて落葉樹はすっかり衣替えをすませ、ご利用者のみなさんがてくてくと歩く散歩道をにぎやかに彩ります。

 

たとえばご利用者Sさんは老年期をむかえて眠るようすが多くなり、以前のような活発なようすはまばらです。しかし車椅子に乗りいっしょに散歩するときには、降りそそぐ冬の陽に「あ~!眩し~!」といいながらギュッと目を瞑り、きづくと次の瞬間には陽気にけらけらと笑いながらうたう姿があります。Sさんの歌と、きこえてくる野鳥の声を聴きながら車椅子のハンドルを操作し、揺れに気を配りながらゆっくりと道をすすむとき、ふしぎな穏やかさに包まれるのを感じます。

 

きこえてくる鳥の一声一声はくりかえされながらも一声毎にあたらしく、それはただ一度のものであり、まさしくその一声の瞬間に鳥は生きている──そうした実感はSさんの笑いながらうたう姿にもあり、その行為、その行為を支える生への態度にふれたとき、わたしたちは利用者支援にかかわるよりもなによりもまず、ひとが生きるということにかかわっているのだと不意に気づかされたりもします。

 

 

法人構内に自生するマーガレット

 

 

つめたい木陰にあっても道端に快く咲くマーガレットにちかづくと、Sさんはうたうのをピタリとやめ、そっと手のひらでやさしく花を包みます。

 

しばらく沈黙のまま花にまなざしを向け眺めていたSさんでしたが、次の瞬間、ぱくりと口に頬張りそうになりました。あわてて「おっと!Sさ~ん!」と声をかけると「ん~!もう!」とぷりぷりと機嫌をそこねてしまいました。しかし「さぁ行きましょ~」と車椅子をふたたび押すと、Sさんはまたすぐに笑いながらうたいはじめました。まじまじと観察し、じっさいに手に触れ、口にふくみたしかめる。それはSさんにとって、いたって素直な動きだったのかなともおもいました。

 

きこえてくるSさんの歌声に、笑う姿に、太陽は変わらずきらきらと眩しく射すのでした。

 

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