ペーストアート

2022.9.26 記入者:大岩(サービス管理責任者)

 

「あ、ハートだ~」

 

「え?」

  

ある日、配膳をしているスタッフのひとりが手にした器を見ながらおもむろに、ハートだ、と言ったため、おもわず拍子抜けな声をもらしてしまいました。間の抜けた表情をしていたのを見かねてか、すぐさま「あ、これですこれです、調理員のTさんのときはときどきこうして描いてくれるんですよ~」と器の中を見せてくれました。

 

 

これは共同調理部から提供されたご利用者Iさんのペースト食のお食事で、おもわず目にしたとたん「あ、ほんとだ!」と声に出してしまいました。それは快い驚きと小さな感動でした。

 

「ペースト食」とは、肉や野菜などを細かくすりつぶし、咀嚼や吸収がしやすいよう配慮・工夫された食事形態のことをいいます。ご利用者のみなさんのお食事は、看護師や嘱託医との連携のもと、ご本人の希望や心身状況にあわせて常食・きざみ食・ペースト食を提供しています。ご利用者Iさんのこの日のお食事は、カフェのバリスタがカプチーノに施すラテアートのような仕様になっており、「新型コロナのクラスターのときもハートを描いてくれていて、みんな和んだんですよ~」と支援員Kさんは笑顔で教えてくれました。

 

あくる日、ハートが素晴らしかった旨を調理員Tさんにお伝えすると、「あ、いや、そんな大したことしてないので…」と伏し目がちに照れたように謙遜されていました。作り手のちょっとした工夫や遊び心、その出発点にある思いで食事の場面が彩られ、受けとった人の心を動かす。まごころの込められたTさんの心づかいに、じぶんもまた心を動かされた一人となったのでした。

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